「うわぁ~…オッサンだらけだな」

汗だくの、いかにも加齢臭が匂ってそうな車両。

『う、うん……』

乗りたくない……。絶対、臭いし!!
水沢に言って、違う車両に乗りたいって、言おうかなぁ…?

「佐々木…この車両で大丈夫?」
『え…あ、うん!大丈夫』
「…本当?嫌なら言えよ」

また、あたし思ってた逆の事を……。嫌なんだけど言えないよねぇ…。
しぶしぶ、臭そうな車両に乗り込んだ。


あれ?以外にもオッサン居なかったりする…?学生もちらほら見えるし…。
でも、何であたしの近くにオッサン5人居んのよぉっ!

結果、入って直ぐの窓側に追いやられた……けど、やだやだ!!超水沢とオッサンに近いんだけど?!
……嬉しいんだか、嫌なんだか。

「佐々木…本当に大丈夫か?」
『う、うん!本当に大丈夫だから!』
「………強制的だけど良い?」
『……へ?』


きょっ、強制……的?
水沢は電車の揺れに紛れて、あたしを覆うように前に移動してきた。

『ちょっ、ちょっと…水沢!』

水沢が、前に来て目があった瞬間。

「わっ?!」
『きゃっ?!』

車両が左に揺れた。
左側は…あたしと水沢が居る方向。大きな揺れに対抗出来ない満員電車。
水沢は、オッサンに押されてあたしの方に倒れてきた。

「混んでる中で、キスしちゃうんじゃなーい?」

可耶……マジでするかも知れない…!


『んっ……』
「ってぇ……」

現実は、そんなに簡単な事じゃないよ可耶。

キス……してないけど…水沢の口元が、あたしの左耳にあった。

「ごめん……着くまでこの調子かも」
『い……良いよ』
「サンキュ」

水沢が口を動かす度に、耳から吐息があたしの首をすくめる。

喋って欲しい。
でも、水沢が喋る度にドキドキして、会話がままならなくなるから、喋って欲しくない。

そんな反比例な想いと、ドキドキは駅に着くまで繰り返した。




『つ、着いたぁ…!』

何とも言えない達成感と、どっとあたしを襲った疲労感。

そーいえば、あんな近くに居てあたしが臭くなかったかな?後で、トイレでシューってしよ。

「じゃー、会場まで歩くぞ」
『ラジャー』