大会当日……あたしは、1人バカみたいに悩んでいた。

「混んでる中で、キスしちゃうんじゃなーい?」

他人事だと思ってあんな事言っちゃって……。
なったら良いなっ♪って、少し思うじゃない!!

可耶のバカッ!!!



「おはよう、佐々木」
『水沢…おはよ……』

しかも、滝山までなんなの?!
家に帰って、大会の紙を読んでいると“大会当日は、マネージャーも兼ねるので、必ず2人で行くこと”と赤ペンで書いてあった。

……まさか可耶これ見て言ったんじゃないでしょうね?

『っと……何処までだっけ?』
「ここだよ、460円」
『あ、ありがとう』
「いえいえ。自販機行ってくる」
『えっ!?あたしも……』

そう、走り去る水沢。

まっ…待って!!
駅のホームに学生服に女1人きりは、ちょっと寂しい!

あたしの心の叫びも虚しく、夏の日差しが暑いホームに1人取り残された。
見渡せば、すぐそこにクーラーがガンガン効いた待合室が在るのに……!

“暑かったから”だけの理由で勝手に待合室には入れない。

自分勝手過ぎるし、自己中になるし…。流石に、好きな人の前では“自分勝手じゃない女”を演じなければいけない。

「わっ!!!」
『ぎゃっ!?』

突然、あたしの両方の頬に冷たさが走った。

「わりぃ、わりぃ!」
『なんだぁ…水沢かぁ』

水沢は、クスクス笑いながら右手に持っていたソーダのペットボトルをあたしに渡した。

「それ…お詫び」
『そんな…わざわざ』
「いーから」

いーから、って…なかなか飲めるワケないでしょ!!

中身は飲んで、外のラベルとかは残しておこうか?…変態っぽいかな?

『ありがと…』
「そろそろ電車来るぞ。俺ら、はぐれねぇようにしなきゃな」
『うん……』

はぐれないように……あたしが水沢の近くに行くのは別に…変じゃないよね。
ホームアナウンスから、あたし達が乗る電車を告げられた。

混むって事は、要は満員電車。好きな人と2人で、通勤ラッシュの電車の中って…ちょっとロマンチックだったり?!


ん~ないない。
だって……ねぇ…?


あたしの前に、電車が止まった。あたしの視界に入ってくる景色は…。