「……じゃ以上の点を踏まえ、まず5秒から縮めよう!」
「「おぉーー!!」」
「妃泉ちゃん、も一回お願い」
『はい、では始めます』


さっきまで、泳いでいたのを感じさせない泳ぎを見せる先輩。

その実力は圧巻で、あたし達1年と3年のレベルの差を感じさせられた。


「…妃泉」
『可耶!どうしたの?』
「滝山が呼んでる…から変わるよ」

可耶の目線の先には、腕を組んで険しい顔をしている滝山と……深田先輩…?

『ごめん…ありがと』
「いーよん♪」
『ラストは、森川先輩だから』

途中から来た可耶にアンカーだけ伝えると、急いで滝山の元に向かった。

『何ですか?』
「……実はなぁ…。深田が左足を捻挫して、女子のメドレーが一枠空くんだ」

あそこから見えなかったけど、深田先輩の左足に目をやると、湿布が貼ってあった。

「それで……私が推薦したの。佐々木さんなら、私の代わりになるから…」
『…先輩は3年ですし、代役は2年の先輩でも…』
「出てやれ、佐々木」
「お願い……!!」

急にお願いされても…。代わりになるって、あたしを買いかぶりすぎだから!!

『おっ…お断りします!』
「ど…どうして?!」
『嬉しいん…ですけど、経験も無いので…逆に足を引っ張りますから』
「……一理あるな。深田、他を当たるぞ」

他を当たるのは良いけど、…あたしが足を引っ張るって事に対して一理あるってどういう事よ!!

そんな思いを押さえつつ、すみません、と頭を下げて自分だけが聞こえるような、小さな小さな声で謝った。



「妃泉、本当もったいなーい」
『別に良いでしょ!あ・た・し・の・勝手!!』
「だけどさぁ~?」

お昼休み、可耶はメロンパンにかぶり付きながら、あたしを説教した。

別に、あたし自身は何とも思ってない。可耶のお説教を右に受け流して、クリームパンをかじった矢先。

「妃泉ー!水沢が呼んでるー!!」

一番、廊下側の女子からのお呼びだし。

『ふっ?!(へっ?!)』
「おうおう♪どーしたっ?水沢くんッ!」
『…クリーム付いてない?!』
「付いてない、付いてない」

可耶にGOサインをもらって、いつもは見せない最低限の“女の子らしい”歩き方で向かった。