「お兄ちゃん……?楠 明良か?」
「ええ。知ってる先生?雅が愛用してるタンドゥルプワゾン。あれはあたしがあげたものなの。
タンドゥルプワゾンは今や神話となったプワゾンの昼の顔。
あたしがつけてるのは“プワゾン”。意味は“毒”」
楠は少女らしからぬ妖艶な微笑みを浮かべた。
どこかで見た微笑だと思ったら、何てことない。雅のそれと同じじゃないか。
“毒”の昼と夜の顔。
まるで姉妹のように。
だけど、二人は最初から一つだった。
「昼はね、温かくて光がたくさん当たってるの。まるで雅みたいに。
夜は―――光の当たらない、冷たい……
あたしみたい。
許せなかったの。
血が繋がってないってだけで、無条件にお兄ちゃんから愛されてる雅が」
言ってる意味が良く分からない。
だって楠 明良は兄だろう。
雅にとっても楠にとっても……
お兄ちゃんの愛情を独り占めしたいのか?
いや、そんな風には思えなかった。
ここまで、狡猾に裏で糸を操ってきた楠だ。
もっと他に明確な……もっと複雑で深い感情があるはずだ。
―――そう言えば以前、楠は許されない恋をしている、と言っていた。
「まだ気付かない?」
楠はふふっと笑った。



