TENDRE POISON ~優しい毒~


3月の穏やかな風は暖かく、花の香りを僅かに含んでいた。


屋上庭園は、なるほど薔薇の園だった。


一面緑の葉が生い茂っていて、ピンクや白、黄色、そして赤という色とりどりの薔薇の花を鮮やかに咲かせている。


ちょっとした植物園みたいだ。



洒落たアーチが施してあって、つたが巻きついてる。そのつたにもいくつか薔薇の花が咲いていた。


そのアーチの下に車椅子に座った楠の後姿が見えた。


「楠……」


僕が声をかけると、楠は車椅子ごと振り返った。





「先生、早かったのね」



デジャヴュ。



こんな風景前にもあった。ぞっとするぐらい綺麗な微笑み方もあのときの鬼頭と酷似していた。




僕は我知らず……思わず一歩後退していた。


「楠……話したいことって何?」



「うん。先生には知ってもらいたくて。ううん。知る権利があると思って、ここに来てもらったの」


一吹きの風が吹いて、ざわざわと葉が揺れた。


まるで僕の心情を表してるようだ。


不穏で、強い疑心を孕んだ冷たい風だった。