8月○×日

海の香りが鼻を擽る。

真っ白いワンピースに身を包むほのかは、

車椅子を押しながら、

しゅんに話し掛ける。

「しゅん君もう着くよ」

優しい声に薄らと瞳を開ける、しゅん。

暖かい風に微かに潮の香りが混ざり、
波の音が聴こえて来る。

「しゅん君おはよう♪日射しが気持ち良いよ」

ほのかは語り掛けながら砂浜の手前で車椅子を止める。

しゅんを抱き寄せ木陰に座らせ
横に寄り添う様にほのかも座り込んだ。


細やかな幸せ、穏やかな時間が二人を包む。


不と意識が朦朧とする中、しゅんが口を開く

「ほっほの・か、ごっ、ごめんな。」

「ん?」

「こっ、こんなっ、ぼっ僕のわっ、我がままに、つっ、付き、合って、くれ、て…」

「謝らないで、私しゅん君の事大好きだもの。幾らでも付き合うわ。」

ほのかの目頭がぐっと熱くなる。


「ぼっ僕は、いっ今まで、きっ君に、なっ何も、してあっ、挙げられな、かった。」

しゅんは意識を失いそうになる。


「しゅっん君?しゅん君?しっ、しっかりしてっ、しゅん君っ。」

ほのかは涙を浮かべて、しゅんの手を握った。

「私ね、しゅん君に伝えなければいけない事あるの」

「なっなあぅに?」

しゅんが微かな声で尋ねる。

ほのかは握った手をそのまま自分のお腹に置いた。

「しゅん君、しゅん君は、パパになったんだよ。」

満面な笑みで答えた。


しゅんの瞳から一筋の涙が落ちる。

「ほっほのか、いっいいの、か?」


「うん。私、後悔しないよ。」

力強く答えるほのか。


「ほっほの、か、あっあり、が、とう。もっもう、少し、そっ傍に、一緒に、いた、かった…。」

しゅんが静かに目を閉じていった。


「しゅん君!しゅん君行かないで、ねぇ~逝かないでよう。私を置いて逝かないでよう~。」

しゅんは二度と目を開ける事は無かった。

暫くして空を見上げるほのかは、

涙を拭いしゅんを抱き締めながら、

「行こう。あの場所へ・・・。」