『雨呼びと虹架け』



女は雨を降らす命を受けた者だった。

その部屋に浮く大きな地球儀をくるくると回すと、雨を振らせたい場所にその細く青白い指で触れて目を閉じる。

軽い重力の動きを感じた後に目を開けるとそこが目的の場所だ。

女は悠々と歩きながら周りを注意深く見回す。人々に女の姿は見えない。
雨が降らずに困っている人もいれば雨の事など気にも留めずにただ過ごしている人もいる。

女は足を止める。そしてその空虚な目で空を仰いだ。

さめざめと明るい空に不穏な色を湛えた雨雲が集まる。
重く垂れこめる灰色の塊に人々はそれぞれの表情を浮かべ、自分を守るべき対応をする。

雨が降り始めた。

女は雨の中を歩き回る。
その周りを幾多もの人が早足で横切る。
不満を漏らし悪態をつきながら屋根を、足を止める場所を探して。

その言葉を耳に受けながらも風が如く流しながら女は歩き続ける。
濡れた髪を頬に張り付け、服の裾から雫を振りながら。

女が足を止めた。
畑に雨が降るのを満足そうに見つめる老人をその目に捉えて。

表情の浮かばない双のレンズを固定したまま、女は長い間、そのまま立ち止っていた。