少年がぴんと張った糸のような姿勢でそれに昇って行くのを、私は空の点になるまで見上げていたが、やがてその姿が確認できなくなったので、私は我が家の墓に足を向けた。

 オーソドックスな灰色の四角い墓には恭しく「先祖代々の墓」の文字が刻まれている。
 ここには妻の骨も入っている。
しかし花は空の上の上の方に届けられていった。そこにいる本人の元へ。
しかし私が手を合わせているのはこの四角い石だ。なんだかおかしな話である。

 どうせ本人にだけ届ける事が出来るなら、妻の好きな花にすればよかった、と私は思った。
妻はカラーが好きだった。シンプルでピンとしてるところが好きなの、と初めて二人で出掛けた時に花屋の前で見ていたのを思い出す。
 結婚式には白いカラーのブーケを手にしていた。彼女の気性に良く似合っていると思った。
 白いカラーのブーケを握ったその手に、今菊の花が届けられている。
あとはどんな花が束ねられていたっけか……花に詳しくない私は他の花の事はもう覚えていなかった。

 もうそろそろかと思い、私は少年が昇って行った場所に戻る。