そんなふうに妻の事を考えるたび、折り鶴はその平たい体をむくむくと立体的にして、やがて両羽根を広げた今にも飛び立ちそうな姿となった。

「おじさんやるねぇ。完璧だよ」
 少年は花束を抱えたまま器用に拍手をした。私はなんだか照れくさくて少し笑う。

 そのまま少年は手の上の鶴のしっぽをちょいと掴み、じゃあ行ってくるから少し待ってて、と私に言った。
 そして、たった今思いついたような声を上げ、少年は私を見た。

「あ、そうだ。おじさん」
「なんだい?」
「おじさん、本当に奥さんの事好きだよね?」
「何を急に」

 私は面食らってたじろいだ。
しかし少年はそういう人が多いのか私の言葉にもさほど動じず、

「別に冷やかすわけじゃないよ。ただ、本当に想ってないと鶴が迷っちゃって飛んで行かないから」
「そういうことなら」
私は気持ちを落ち着ける。
「大丈夫、届く筈だ」
「筈じゃ駄目だよ」
 少年が口を尖らせた。

「届くよ」
 私が言い直すと

「へへ、今のはちょっとからかっちゃった」
と少年が笑った。

「よろしく頼むよ」
 私が笑い返すと、少年も笑顔で返し、その小さい鶴に吊られるような姿勢のまま空に昇っていった。