「これは折り鶴かい?」
「そう」

 私は掌に乗せられた小さな塊をまじまじと観察する。黄色く固い紙で折られたそれはまだ羽が広げられていないぺたんこの折り鶴だった。

「俺の仕事はこれを使って届けたい本人に花を渡すことだよ。結構喜ばれてんだよ、この仕事。お墓に飾るより本人に直接渡せた方がいいと思わない?」

 そう言って彼は自信ありげに首を傾げる。確かにいいサービスだと私も思った。

「お代は?」
「さっき失礼なこと言っちゃったもん、勉強しますよ」
「じゃあ」

 私は何も渡さないのは申し訳ないと思ってポケットの中に手を突っ込み、そこにあったミントのガムを渡した。彼はそれを受け取り、軽く頭を下げながら素早くポケットにしまった。

「毎度あり。で、どちらまで?」
「では妻に、これを運んでいただきたい」
「今年で何回忌?」
「七回忌だ」
「分かった。じゃあちょっと花束俺が持つから」

 少年は私が持っていた花束を慣れた手つきで抱え、顎で私の手をさす。

「さっき渡した折り鶴あるでしょ?それを両手に乗せて」

 私は言われた通り両手に乗せる。ちょっとした風で飛んでしまいそうなほど頼りないそれは私の手の上でぺたりと横たわっている。少年はそれを綺麗に私の手の真ん中に立てるように持ち、的確に指示を出す。

「それを見つめながら奥さんの事考えて。名前とか顔の特徴とか、好きな物の事とか。情報は正格にね。特徴は多い方がいいよ。これが道しるべになるんだから、手を抜かないできちんと考えてね」

 言われた通り、黄色い折り鶴を見ながら私は妻の事を考える。
ふんわりと柔らかな髪や、毎朝コーヒーを飲んでいた事。いってらっしゃい、と毎朝背中から聞こえる声。ビールを注ぐのが下手で泡だらけにする事。ちょっと踵を持ちあげるようにして鍋を覗く後姿。