「ねぇ、お月さん」
「何?」
「お月さんの好きな人ってお日様でしょ?」

お月さんは満月みたいに目を丸くしました。
どうして分かったの?って思ってるのが、その表情だけで分かっちゃうお月さんを私は可愛いなと思いました。

「明日の朝イチで私、お日様に、お月さんはいい子よ、って伝えておくわ。一度話してあげてって」
「ありがとう」

そう言って、お月さんは嬉しそうに微笑みました。
そして表情を変え、
「でも私たちが愛し合って寄り添ったりしちゃったら、あなたたちみんな滅んじゃうわよ?」
「お月さんとお日様の幸せの為なら人類だって喜んで何回でも滅んでくれるわよ」

私は笑って乾杯するみたいにコップを掲げました。
心の中では、明日にでも滅べばこのモヤモヤした気持ちもなくなるし、と思っていました。

そしてお月さんとお日様の恋路の果てに叶わなかった恋なんてちょっと素敵じゃない?なんて思って。

「今日はもう寝ようと思う。明日お日様にも話しなきゃいけないし」
「可愛い子だって、私のこと伝えておいてね」

そう言うお月さんに笑顔で答えて、そのまま私は背中を向けました。

部屋に入りかけた時、何気なく見たコップの中には、お酒の海に他人みたいな顔をしたお月さんがくっきりとした輪郭を持って漂っていました。



《おしまい》