二人は部屋の外へ出た。
そこに言葉はなく、向かい合って見つめ合って。

女は静かに立ちすくみ、目を閉じる。
そしてごく自然に、雨雲を惹きつけるその瞳を空に向けた。

程なくして空から雨が降り始めた。

それは感情をぶつけるようにザアザアと酷い音を立て、容赦なく二人の体を打ち付けた。
男は女をただ見つめる。
雨に遮られ、レースのカーテンに隔たれたように見える女に焦点を合わせ続けた。
やや俯くように頤を下げたその顔に、何の色も映さない瞳が見える。
虚を捕まえるような、焦点の定まらないようなその瞳に、孤独を満たすように雨が降る。

やがて雨は緩やかに、その姿を変える。

乱暴に叩くのをやめ、まるで汚れを洗い流すように楚々と。
そして最後には包むような柔らかい霧雨になり。
それが余韻であるかのようにその姿をいつの間にか消していった。

辺りに光が溢れ始めた。

厚く垂れ込める雲はもうない。
埃っぽさが消えた空気は肌に優しい清々しさを湛えて触れる。
男は女に少し近づいた。
女は男の瞳に焦点を合わせる。

洗われた空気の中でぎこちない距離を持って二人は見つめ合った。

「濡れてる」
女は言った。

男はただキラキラと光を反射する女の濡れた髪を見ていた。

そして天に向かって手を広げる。
力強く動かした男の手から色彩が溢れる。

澄んだ空に七色の虹が架かった。

「きれい」
ぽつりと呟いた女に微笑みながら男が言う。
「君が作った虹だ」

女は微笑んだ。
ぎこちなく歪めた口許は男の傍に寄るにつれ、優しく穏やかに緩む。
そして静かに男を抱き締めた。
男を介して、自分を慈しむように。


《おしまい》