『つるおり』

 彼岸なので妻の墓参りにと花を片手に墓場へ来ると、そこに居たのは白シャツにハンチング帽というおよそ日本の墓場に似つかわしくない恰好の少年だった。

 背中を丸め、集中して何かをしている少年は私が近づいても気づかず、何をしているのかと声をかけたところでようやくその顔を上げた。

「いらっしゃい、どちらまで?」

 少年は私を認めるなり笑顔でそう言ったが何の事だかさっぱり分からず呆気にとられていると、悪戯で声をかけられたと思ったようで不機嫌な表情になる。
「ちぇっ。冷やかしならよそ行ってよ」

 そしてまた背中を丸め手に持った何かで作業をしだした。

「いやいや済まない。そういうわけじゃないんだ」
 私はあわてて弁解した。年端のいかない少年を不機嫌にするのは本意ではない。

「君が何をしているのか分からなくて、それで声をかけたんだ。そうしたら思いもよらない言葉が返ってきたから驚いてしまって」
「なるほど、初めてかい。そりゃ無理ないさね」

 彼は立ち上がって私に向き合った。そして大人ぶった表情で微笑んで自己紹介を始める。
「俺は運び屋だよ。荷物運びが仕事。おじさん、お墓参りに来たんならその花、俺が運んであげようか?」
「運ぶったって君、もうお墓は目の前じゃないか」
「そうじゃないよ」

 少年はふふっと笑ってポケットから何かを出し、私の手に乗せた。