その日の放課後、私は圭子がカフェに行こうと誘ったのを断って家路についた。
気持ちはすっかりブルーになっていて、心のあちこちで『と・も・や!』という甘い声が木霊していた。
本当に、私って馬鹿だ。
私にハッピーな恋なんて出来るわけが無いのに。
それなのに、今度もまた、体温が上がるくらいの熱い恋をしてしまった。
ただし、片思いだけど。

私は冷たい風の吹く並木道をとぼとぼと歩いていた。

「もし、そこのお嬢さん」

急にそんな声が聞こえたので、私は思わず声のしたほうを見た。
そこには、パステルカラーが定番の春には似合わない、
紫の胡散臭い衣装に身を包んだ占い師がひっそり座っていた。
どうやら此処で占いをしているようだ。
私は変なことに巻き込まれたくないと、無視して歩いていこうとした。

「そこのお嬢さんだよ。恋で悩んでるんだろ?」

私は思わず立ち止まる。
そして、占い師のほうをまじまじと見た。
何で分かったんだろう。
でも、その占い師の持っている胡散臭い大きな水晶玉を見るうち、
きっと年頃の女の子の悩みなんて推理で分かるのだろうという結論に行き着いた。

「ははーん、私を信じてないね。相手は高沢 智也(たかざわ ともや)。
他校の彼女がいる。
学校では悲劇の少女で通ってるお前の5度目の恋の相手で、ジャムをくれたことがきっかけで一目惚れ。」

私は思わず口をあんぐりと開けて、固まってしまった。
何?何でそんなことまで知ってるの、この人。
盗聴?情報調達官?FBI?CIA?
何だか、頭がごちゃごちゃしてきた。
私は気味が悪くなり、走り出そうとした。
けれど、占い師に呼び止められてしまった。

「待ちな!牡丹ちゃん。
いずれ私の助けが必要になるさ。そんな時は、ここに来な。私の自宅兼事務所だ」

そう言って占い師は、私に薄紫の名刺を渡した。
私はノリで受け取ってしまったことを後悔しながら、
学校の集団行動の実技テストよりも素早く回れ右をすると、一目散に走り出した。
後ろから占い師の笑い声が聞こえてくるのが分かった。