契約、という芳野さんの言葉は、やけに冷たく耳の奥に響き、残った。


ほんの少しでも……

打ち解ける事が出来たと、自惚れていたのだろうか。

俺を見る彼女の瞳からは、何の感情も読み取れない。

その視線に堪えられず、俯いてしまう。


「ぼっちゃん……?」

「……。何でもない」

どこか戸惑ったような、芳野さんの声。

俯いたまま、その表情を見ずに踵を返す。


俺は今、どんな顔をしているんだろう。

食事を再開しようと食卓に戻る。

箸でじゃが芋を口に運ぶが、物を食べているという感覚がしない。

残さないように、すべてを食べ終えるまで口に運んでは、飲み込むだけの作業を続ける。


重く、鉛が胸につかえたような感覚……

こんな些細な事で傷つくなんて、小さな子供みたいだ。


芳野さんが言った事は間違っていない。

彼女は自分の仕事を全うしようとしているだけだ。

胸の痛みを否定するように、そう、何度も自分に言い聞かせた。