「な、何?」 俺の問い掛けに彼女は何も答えず、すっと、部屋に足を踏み入れる。 右手に見えるのは、刃渡り15センチ程の出刃包丁。 刃先はこちらに向けられており、蛍光灯に照らされ、冷たく光っている。 一歩、後退ると、彼女もまた一歩、距離を詰める。 刃物を持つ手は小刻みに震え、額には玉のような汗が浮かんでいる。 だが、その瞳は瞬きもせず真っ直ぐ、俺の姿を捕らえ―― 「ぼっちゃん……殺虫剤、ありませんか……?」 彼女は、震える声でそう言った。