その夜、健人は珍しく家に帰った。彼は常にハルの傍にいたので帰れるようになってからも、あまり帰る事をしなかった。

「お帰りなさい」

久しぶりに帰った夫に喜びを出した美和子だったが、少しあった翳りを健人に見破られてしまった。
 
「何かあった?」

美和子はドキッとした。あの子が来た事を言うべきか、言わざるべきか。
 今までの自分を考えると、自分は悪い大人でしかなかったのだから。知ろうともせず、ただ自分の不満を言う―――

「あの子が来たの。今日。」

今度は健人が驚く。もう誰かは予想がついたらしい。

「ごめんなさい。って言われたわ。もう真琴は帰ってくるって言ったの」

健人は何も言えず、ただ聞いていた。美和子のこんな顔は初めて見たからなのかもしれない。最近はずっとハルについていたから。

「私、彼女のことを知ろうとしないで、怒ってしまったの。私の家族を奪ってって…」

健人は愕然とした。そんな風に思っていたなんて気づけなかったからだ。
 それをあの子に言ってしまったことに――――

「それは、違う…」
「わかってる!!」

健人の声は美和子によって途切れた。

「話して分かったわ…。そう言われるのを分かっていたかのように、何も言わなかった。こっちの事も知らないくせにって言ってくれればよかったのに」

美和子はあの時の事を思い出すと悲しくなる。一方的に怒っても何も言わなかった。ただただ悲しそうにしていたあの子から、頼れる人を奪ったなんていってしまった。彼女には頼れる人が少ないのに――――

「美和子…」
「彼女、家の前で消えたの。まるで幻のように」
「力…か」
「ふふっ。姫みたいに幸せかと思っていたけどそうじゃ無いのかな? 私は幸せを願って幻の姫って呼んじゃおうかしら」

その言葉を聴いた健人は、思いに耽る。そして何か決めたように話す。

 彼も秘密を持っていた。

「俺、実は――――」