それはテトラポッドのある海だった。 磯の香りがして、涼しくて好きだった。 いつもテトラポッドに座り、魚を探してみたり、『夏になったら泳ぎに来ようね』なんて言いながら、地味ながら楽しさを感じていた。 でも独りの海は楽しくない。 慧が居ないと楽しさなんて感じない。 「ったく、慧ったら、どこを、ほっつき歩いてんのよ………」 と、呟いた芽依の瞳から、すぅっと、雫が流れ落ちた。