前日の夜。


「佐藤、お前、遺書は検閲通ったのかよ?俺なんて3回も書き直しさせられたぜ。」谷山が与えられたタバコをふかしながら言った。


『お前、どうせ、女を知って死にたかったとか書いたんだろ?』佐藤の軽口に谷山は

「まぁ、知りたかったけどな。」と前置きして

「本当は死にたくねぇよって母ちゃんに書いたんだ。」


佐藤は黙って谷山の視線に合わせると、谷山は咳を切ったように話し出した。


「うちの田舎じゃよう、正月にはあんころ餅を雑煮に入れて食うんだけど、こいつがうめぇんだわ…。あれをもういっぺんでいいから食いたいと思うとよ、死にたくなくなっちまってよ。」


『で、なんて書き直したんだ?』


「靖国に持って来てくれって頼んどいた。その一行だ。」


『たった…、一行だけか?』


「ああ。」と一言呟いた谷山は童顔に似合わない白い煙を吐き出し視線を落とした。