御母様
厳しい訓練を終えまして此の度、特別攻撃の命を受け日本男児として、御国の為に悠久の大義の元、此の命を捧げんとす事、高き誇りと最高に満ちた喜びを感じて居ます。
御母様が私に対しての心残りや悲しみなどを想いますと胸が張り裂けんばかりに痛み、生への執着を宿してしまいそうになりますが、後世安楽にお過ごしいただける様、明日、敵艦を必沈すべく飛び立ちます。
一番下の久子は兄弟唯一の女子ですが、兄として何もしてやれなかった分、御母様が、うんとうんと甘えさせてあげて下さい。
いつか平和な空から、久子が嫁ぎ往く日を楽しみに見守って居ます。
広島にも間もなく桜の花が咲く季節が参ります。私は沖縄の純情可憐な早咲きの桜の花びらを軍服に忍ばせ喜んで散って参ります。
御母様、御身体御自愛下さい。
左様なら。
昭和20年3月15日
佐藤英男


