少し彼”蓬莱”について語るとしよう。

”蓬莱家”と言えばその世界ではとても有名な便利屋だった。
家系を紐解いて行くと、戦国時代の風魔一族に繋がる。
江戸時代以降は各地の色里(現在の風俗街)で影の支配者として君臨していたが一部の者は大名家等に士官して諜報や暗殺を生業として生きてきた者も少なくなかった。

そして現代迄継承して来た”蓬莱流古武術”継承者の長男として生まれた彼は物心着いた時よりその技を叩き込まれて育てられた。

彼が二歳の時、母親と死別。
六歳の時に祖父、祖母が相次いで他界。
十二歳の時に弟が事故死。
十四歳の時に初めての仕事を任される。
しかし、翌十五歳の時に父親が暗殺される。
そして、十八歳の時初めて人を手に掛ける。

彼の人生は常に父親を越える事を目標として生きて来た。
しかし、今だ越えられずにいる自分に気付きプロレスラーや空手家に喧嘩をしかけ勝利しても虚しさしか残らなかった。

父親の強さを越えたい、でも強い相手もいないそんな日々に出合ったのが蓬莱を捕まえた謎の男だった。
全く歯が立たない相手と対戦したのは父親以来だっただけにリベンジしたい気持ちが後から募ってきた。

そして今、この話がどこまで本当か分からないがもしそうであればリベンジをしに地下へ行きたい、強い奴らと闘いたいと言う衝動に駆られてしまっている。

よく考えれば『座して滅ぶ』のを待つか『動いて滅ぶ』かの死の宣告を受けていると言っても過言ではない。
少なからずまた表の世界へ行ける可能性があってもそれはどうでもいい。どんな世界であれ強く…いや、父を越えられる場所があるのならそこに行ってみたい。その先に”死”しか無くてもどうせいずれはそうなる運命、どちらが良いか選ぶのに時間はかからなかった。