「いい加減、現実を見ろよ。いつまでも逃げてたらダメになるのは三谷悠吾自身だぞ?」



でも俺は奈未のいない世界はキツいんだ。


「しょうがねんだよ」



「なにがしょうがないんだ?まだわかりもしないことをガキんちょが偉そうに…!」


「ガキで何が悪い!?浅野に比べたら俺はまだまだガキで…、でも、奈未のそばで支えてやれる俺でいたい!」


だから…現実を見ることはできない。

奈未を悲しませることは、俺にはできないから。


「…そんな俺じゃ…ダメなのか…?」



「…ダメじゃないよ、悠君」



奈未…?
どうして君がここにいるの?


「これ、忘れ物。…あたしね、悠君がそばにいてくれるだけで嬉しかったの。
本当は、あたしが病気になったから悠君が離れていくんじゃないかって、そう思ってたの。
…でも、悠君があたしから離れられない理由ができちゃったじゃん…」



“離れられない理由”
つまり、奈未の妊娠だろう。



「あたし、妊娠したことで悠君を離れられなくさせた。だから…本当は、妊娠がわかったときすごく辛かった。
これであたしが悠君の人生奪ったって思ったの。あたし、悠君が病室にくるたび悲しくなった。
“病気持ちの彼女でオマケに妊娠”悠君にそんな負担がかかるようなことしたのはあたしなの!
…だから、だから1人で抱え込まないでよ。
あたしにだって悠君が必要なの…」


奈未は泣き虫なのに今日はただ俺の目を見て必死に訴えかけるだけ。



「…悠君、あたしね、多分悠君より先にいなくなっちゃう。
でもね、悠君はダメになんかならないよ。…だって悠君にはこの子がいるでしょ?」



そう言って優しくお腹を撫でた。



ごめんな、奈未。
ごめんな、都羽。
こんな俺でも必要としてくれるんだな。