■最高のプレゼント

どれくらいぶりだろう。
恭平の優しい笑顔を見たのは…

すごく遠い日のように思う。


「ちょっと看護婦さん呼んでくるわ。 カンナの事、お願いねマリア。」

愛里はポンと恭平の肩を叩き、病室を後にする。
それと同時、病室にシンと無音の世界が生まれた。



『頭…どう? 状況、把握(ハアク)出来てる?』

しばらく続いた沈黙を破ったのは、恭平の方が先だった。

把握は…出来ていない。
正直、何が起こったかよく解らないままだ。

『…私… あの通り魔にやられたの…?』

ただ後ろから急に頭を殴られ…

『んーん、違う人。 犯人ならもう警察署だし…』

恭平の説明によると、私を襲った男は金銭目的で犯行に至ったらしい。

逃走する際、不信に思った通行人が110番。
すぐ駆け付けた警察に取り押さえられたと言う。


『それと、カンナのお母さんなら着替え取りにいったから。』

そういえば、さっき声がしたのに姿がない。

『お母さん戻ったら俺達は行くね。』
『…うん…』

少し前の恭平なら、朝まで一緒にいてくれたかな。
心配して、涙を零してくれたかな。





しばらくすると看護婦さんとお医者様が病室にやってきた。
診察のため、男性2人(愛里も)は部屋から出され私は診察を受ける。

「うん、もう心配はないね!」

幸い軽傷。
頭だから出血が多かっただけで、傷は意外にも浅いみたい。

『ありがとうございました。』

お礼を言うと先生は笑顔を見せ、戻っていく。
その後で、看護婦さんが私に耳打ちをした。

「優しい彼ね? 事件の事聞いて、すっ飛んできたのよ。」
『え…?』
「命に別状ないって教えたら力が抜けちゃったみたいで… 早く笑顔見せて安心させてあげてね?」

意地悪に笑う看護婦さんに私の顔は真っ赤に染まる。

これ以上に嬉しい事はない…