■さよなら

【好きになってはいけない人を好きになってしまった】

親でもない。
兄妹でもない。

何でもない、ただの人間。

何故、好きになってはいけないのか…
どう考えても納得できる答えは見つからなかった。


「どう? 美味しいでしょ?」

愛里は優しく笑う。
そう言われ、ようやくカレーを味わってみた。

辛くない甘口のカレー。
食べやすく、小さめに切られた野菜は柔らかくて甘かった。

でも…食べにくかった…

喉の奥に熱い物が詰まったような感覚…
息がしずらくて、頑張れば頑張る程に息苦しくなる。

『…ッ…』

恭平に…会いたい。
話したい。

笑顔が見たいよ…

こんなに苦しいのに、「錯覚」なんて言葉で済まさないで。
真剣に受け止めてよ…


「ごめん、ごめんね… 最初に止めておくべきだったのよね…?」

愛里は自分を責めるように、右手で左腕を強く掴んだ。
歯を食いしばっていた口元が再度、開く。

「私が悪いのよ、全部… カンナならマリアと上手くいけると思って…」

誰が悪いなんて関係ないような気がする。

強いて言うなら…
恭平を振り向かせる事の出来なかった自分だ。

溢れる涙を止めて…
前に進まなければいけない。

もう…諦めなきゃいけない…






「じゃあ… 気を付けて帰るのよ?」

開店間近になって、ようやく涙は止まった。

『ね、愛里。』

もう、前に進むんだ。

『私… もうここに来ない。』
「そんな… 毎日、来てくれていいのよ?」
『んーん… 2人の事、大好きだけど… もう会わない。』

会ったらまた恋しくなる。
欲しくなる。

「…決めたのなら…仕方ないわね…」
『うん…』

ここに来たら、どんなに冷たくされても恭平を嫌いになる事はない。
愛里にも頼ってしまう。

『…さようなら。』

だから…
今日でHEAVENとさよならする。