■寂しさを埋める者
○Side MARIA

あれはまだ俺達が高校生だった頃…
紗羅は笑顔でこう言った。

【恭平と2人で小さな喫茶店をやりたいの】

確か進路希望を出さなければならない日で、「馬鹿な事を」と笑ったものだ。

【名前も決まってるのよ! ヘブンっていうの】

でも紗羅はいたって真面目な様子。
気付けば俺までその夢に巻き込まれていた…



【天国?】
【そっ HEAVENは天国って意味なの】

だったらParadise(パラダイス)でいいじゃん。
俺は紗羅に皮肉を零す。

でも紗羅はいつだって笑顔を返してくれた。

【私はHEAVENの方が好きよ?】

紗羅がそう言うから、俺の中の天国もParadiseではなくHEAVENとなった。



それは君がいなくなった今も変わらない…






『ありがとうございましたー。』

本日、最後の客を見送り戸締まりをする。
外は真ん丸の月が辺りを照らしていた。

「マリア、これ何処にしまうー?」
『あ… その辺に置いといて。』

愛里はテキパキと店内を掃除し、施錠を確認。
俺はぼーっとそれを見ていた。

「マリアが閉店までいるの珍しいわね。」
『…そうかな…』
「そうよー? いつも女の子と出てっちゃうじゃないの!」

まるで世話女房みたいな愛里につい笑いが漏れてしまう。

『最近は忙しくてそれ所じゃないからねー…』

店の売り上げは今までと何も変わらない。
来客数も変わらない。

だけど妙に忙しく感じる。

「きっとカンナが毎日いるからね!」
『ははっ それが大きいかもね。』

忙しいのは嫌いじゃない。
余計な事を考えずに済むから…

カンナが現れてからだろう…
寂しさが少しずつ埋まっていくようになったのは…

でも決して嫌だと思わない。