■小さな喜び

恭平は車で私を家まで送り、お母さんに言い訳してくれた。

その言い訳は…

「K高校の卒業生なんて凄いわね〜!」

お母さんも納得の言い訳。

「鞠亜さんに勉強教えていただいてたなんて… 本当に有り難いわ!」

私の毎日の放課後は恭平に勉強を教えてもらってる事になった。

しかしよくそんな真っ赤な嘘がペラペラ出るなぁ、と関心してしまう。




『失礼な。 K校は嘘じゃないっての…』
『え?! 本当にK校なの?!』

次の日、愛里に昨晩の話をしていると横から恭平が口を挟んだ。

K校は有名な進学校…
ほとんどの卒業生がいい大学へ進み、エリートの道を辿る。

『だって、おかまバーのマスターなんてやってるから…ッ』

K校生ならもっと他に選択があったはずなのに…

「何よぉ、マリアがマスターじゃ気に入らないわけ?」

と突然、愛里が顔を近付けて言う。

『そ、そんなつもりじゃ…』
「なら余計な詮索、するんじゃないわよ。」

ってか恐いですけど…

私と愛里の様子を見てなのか、恭平は急にクスクスと笑い出した。
その様子に目が離せなくなってしまう。

『HEAVENはね、ある人の夢だったから…』

恭平がいつになく優しい笑顔を見せたから…

『「高校を卒業したら小さな喫茶店を開く」 それが口癖のような人でね…』
『喫茶…店…?』
『HEAVENも最初はただの喫茶店だったんだよ? オカマもいない…』

さらりと発せられた「オカマ」の言葉に愛里は勿論、私まで言葉を失ってしまった。

やっぱり恭平も愛里をオカマだと思ってるんだ…
女扱いはしてあげないのね…

『愛里が来て、HEAVENの店長がいなくなって… 今じゃすっかり、おかまバーになっちゃった!』

恭平はニッと笑うと愛里の頭をワシワシと撫でる。
その様子が無邪気で、私はつい笑ってしまった。

初めて語られた恭平達の過去。
知ってる事が増えた事に、少し喜びを感じた…