■最期のキス
○Side MARIA

キスをしたのは、どれ位ぶりだろう。

きっと「あの日」紗羅にしたキスが最後…

いつも柔らかくて温かい唇は、まるで氷のように硬く冷たかった。

一方的なキスを交わした後、ようやく気付いたよ…
紗羅との別れに…


『送ってくれてありがとう…』
『どう致しまして。』

車をカンナの自宅付近に止め、ドアロックを解除する。

するとカンナは少し警戒した様子で道路に降り立ち逃げるように去っていった。

『バイバイ……』

愛里が聞いたら怒るだろうか…
「それマリアの悪い癖よ」って。

でも涙を流すカンナが…
紗羅に重なった…






「マーリア、見ぃちゃった♪」

HEAVENに戻ると、毎度の如く哲也がカウンターで一杯やっていた。

「ずいぶんと可愛い子連れて出てったねー、彼女?」
『まさか、お客さん。』

幸い、見られたのは車に乗り込む所だけ。
キスを見られたわけじゃない…

『何か作ろうか? 確かジンをベースにしたカクテルが好きだっけ?』

今のうちに話題を変えてしまえばいいと、全く違う話をする。
しかしボトルを取ろうとした手を止められてしまった。

「悪いけど今日は休肝日。 あのお茶くれる?」
『…ミルクシスル? 健康診断でも引っ掛かった?』

毎日、欠かす事なく飲みに来ていてハーブティーを頼まれたのは初めてだった。

「いや、そろそろね… 体に気ぃ付けようかなって。」
『そりゃ、いい事だ。』

底無しに飲む俺もよく紗羅に注意されたっけ…

「私を1人にする気?」って…

馬鹿だよなぁ…

『俺も今日は…休肝日にしとこうかな…』

俺のが1人にされてんじゃん…