今時珍しい、道理のわかる大人。

若い者が道を誤った時は拳を振るってでも止め、正しい方向に導いてやる。

天坏はそんな一本筋の通った男だった。

無口で、たまに開いたと思ったら口の悪さが露呈する。

だが決して間違った事は言わない。

暴力も振るうが、一線は越えない。

あくまで教え導く為だけの拳。

典型的な頑固親父の匂いをさせる、天坏は『カッコいい大人』だった。

だが、この街はもう無法地帯と化している。

どんなに正しい事を説いて聞かせても、知能がないに等しい亡者達には通用しないのだ。

「くそったれ…くそったれ…!」

呪詛のように繰り返し繰り返し、彼は堅牢な塀に囲まれた敷地の中へと入っていく。

鉄格子で出来た門をよじ登った先は、日本であって日本ではない。

在日米軍基地。

荒くれ者の米軍兵士達が闊歩する、軍人達の領域だった。