イカレてやがる!

手に残る撲殺の感触に顔を顰めながら、天坏はまた走り出す。

若い頃は喧嘩もしたさ。

ちょっとヤンチャが過ぎて、警察の世話になった事も一度や二度じゃない。

だが殺しまではした事がない。

俺ぁ筋の通ってねぇ事だけはやった事がねぇのが自慢なんだ。

なのに…。

「くそっ!」

血に塗れた鉄パイプを投げ捨て、誰にともなく罵声を浴びせる。

殺るか殺られるか、だと?

そんなの筋が通ってねぇ!

人間そこまでやっちゃなんねぇだろうが! 

…勿論天坏の言い分は正しい。

人が人の命を奪う事など、本来あってはならない事。

しかし、今この街ではその『筋』は通らない。

死にたくなければ殺るしかない。

相手は言葉も感情もなく生者を食らうゾンビなのだ。