そうやってゾンビの包囲網を突破し、二人を乗せたパトカーは榑市の市街地へと入っていく。

嵐の前の静けさだろうか。

市街地にはゾンビの姿は見受けられない。

「ここらは安全なようだな」

スピードを緩め、運転しながら颯太が呟く。

「なぁ、あんたはこの街に何の用なんだ?」

颯太は深幸の方を見る。

「あら、女性のプライベートを根掘り葉掘り訊くのは失礼よ?新聞記者だけあってデリカシーないわね」

小悪魔的な笑みを浮かべ、深幸が軽く返す。

流石の颯太も彼女には形無しだ。

「…俺はこの街の製薬会社に向かおうと思う」

榑市には全国規模の大手製薬メーカーの本社がある。

美原市大災禍以降、そのメーカーで寄生虫に対するワクチンが開発されているという情報を、取材で入手していたのだ。