注射器だけを持ち、音を立てない様に男に近づく。

亜希はそれを離れて見ている。

男はイビキをかいて、仰向けに寝ている。

注射器針を男の腕に近づける。

心拍数が上昇する。

…これから俺は殺人者、犯罪者になるのだ。

いいのか??人を守るべき警察官が人を殺めるのは?

いいのか??この世の道理に逆らうのが?

俺はここに来て躊躇しかけた。

いや……

…こいつは俺との関係性を持たない赤の他人。

殺しても俺は疑われない。

誰からも憎まれない。蔑まれない。

俺は苦しまない!!

俺が正しいと思うこと、それが俺の従う道理だ!!!!

俺は気持ちが高ぶり、注射針を男の腕の静脈に刺した。

俺は一つ息を吐き、プランジャを動かした。

シリンジの中味がなくなっていく。

中に入れたのは手術用に使われる麻酔薬。
一度投与したら、しばらくは起きない。

今回は少し多めに投与した。

相手が起きていたら、スタンガンを併用するつもりでいたが、今回は使わなかった。

なぜなら、スタンガン自体に気絶させるほどの力が無いからだ。
電気を流し、相手が動けなくなるぐらいだ。

だから、今回の殺人には不向きなものになる。念のために常備はしているが…

俺は直ぐに亜希に合図をした。

眠った男を大きな黒いビニール袋に入れ、それを亜希が運転手する車のトランクに運び込んだ。