「………した……」

「えっ??」


目の前の男があたしに深く頭を下げている。


「先ほどは失礼しました」

「へっ?あ、うん……」


思わずそんな風に言ってしまったのは、周りの視線が何よりも痛いから。


“光くん”のファンの子たちなのだろうか、あたしを嫌な目つきで見てはひそひそと話をしている。


そして、嫌がらせかのように思えた“光くん”のわざとらしい大きな声……


「もういいから、座ってよ」そう静かに言うと、顔を上げる瞬間にあたしに目を合わせ、ニタッと笑った。


そして席に座ると、申し訳なさそうな顔をしながら、あたしのグラスに新しくお酒を作り始めた。


「良かったぁ…、もう一時はどうなるかと」

美波がソファーに倒れ込みながら、嬉しそうに光くんの方を見ている。


なにが良かっただよ……

あたしは、アイツのあの目を見逃しはしなかった。


怖い……

目の前にいるこの男が……



横目で見ながら、作ってくれたお酒を口に運ぶと、凄く濃い目に作っているのが分かった。


この男、あったまにきた……!!!!


あたしだって、お酒は弱いほうじゃない、むしろ強い方に入るだろう。


負けてなんかいられない。


コイツの作った酒で潰れてたまるもんか、そう思うと一気に飲み干し“光くん”の前に空のグラスを置いた。



「未来さん、大丈夫?」

「ん?なにが??」

「いや、いつもに増してペース早いかと……」

「つーか、光くんも飲みなよ!強いんでしょ?」


「あ、はい、いただきます」そう言うと、淡々とした手つきでグラスにお酒を注いだ。