あたしは手の中にある5枚の名刺を順番に見ながらも、なんだか胸が苦しくなり、接客するほどの気力が除々に消えていた。
「何も知らない……」
やっと出た言葉に、二人は悲しそうな顔をして俯くと「分かりました、お仕事中にごめんなさい」そう言い、黒服を呼ぶと「そろそろ帰ります」とチェックをし伝票を見つめお金を出していた。
「これ……貰っていいかな?」
「えっ?」
「この名刺たち……」
「あ、全然構わないです、ただ秋山さんがもし顔を出したとしたら我々が来たことを話して頂けたら」
少しひきつりながらも「勝手に机の引き出し開けてしまったもので」と頭をかいていた。
「ありがとう」
「いいえ、本当に突然に申し訳ありません」
おつりを受け取った二人は立ち上がり深くお辞儀をすると「それじゃあ」とゆっくりと店の扉を開けた。
「もし……」
「はい?」
「もしまた店に顔を出してくれたとしたら、必ず連絡しますね」
そう名刺を強く握りしめ話すと「はい、お願いします」と力のない声で歩いて行った。
名刺を眺めると、とても大事に閉まってくれていたのだろうとすぐに分かった。
もう何年も経っているものもあるのに、色あせることも折れてしまうこともなく、ちゃんと、あたしのメッセージまで残っているまま……
彼らを見送った後、暫くそのまま立ちつくしていて、お店に入る気になれなかった。



