⁂ダイヤモンド⁂



「…………です」

「えっ??」


周りがうるさずぎるのか、菊池さんの声が小さすぎるのか分からなかったくらいに、口から漏れた言葉が気になり手を止めると耳を傾けた。


「いないんです、いなくなってしまったのです」

「いつ?」

「ちょうど1か月くらいはたちます」



周りの雑音が消え、グラスをかき混ぜるのをストップし手にもっていたマドラーがあたしの手からするりと床に落ちた。


この店を最後にしたのも、ちょうど1か月は経つ……


「……」


「それで、何か知っていたらと思って」


二人があたしに頭を下げていた。


まるで、あたしが何かを知っていてそれを隠しているかのように、困り果てた顔つきであたしを見つめる……


「知らないです、むしろあたしも聞きたいくらい」


そう少しきつめの口調で話すと、菊池さんは肩をおとし手をつけていなかったグラスに手を伸ばしいっきに飲み干し、続いて皆元さんまでもが焼酎の入ったグラスを持ち飲みほした。


なんだか、とてつもなくあたしが悪いことをしているように感じてしまう。


「今まで、風邪をひこうが熱でフラフラだろうが、前の日飲みに行って二日酔いだろうが、仕事場に来なかったことはないんです」


おかわりと言わんばかりに目の前に二つのグラスが並べられると、二人を交互に見ながらもあたしはさっさとお酒を作り始めた。


長い沈黙が走りながらも、あたしの手は止まらずに淡々と仕事をし、水滴のせいで濡れているグラスを丁寧に拭くとそっと二人の前に差し出した。