女であるあたしでさえも、彼女の笑顔にドキッとさせられた……
彼女にとって、あたし達は客。
仕事の内容は違うかもしれないけど、あたしと同じ接客業には変わりない。
だけど、あの笑顔は決して作っているものではないと、偽物のあたしには分かる。
「どうぞっ」
差し出されたビールを取ると「ありがとうございました」とお辞儀して次のおさんの元へ急ぐ姿を見つめていた。
周りを見渡すと、たくさんの女の子たちが動き回っている。
「ねぇ、あれって時給いいの?」
初めて見た、彼女たちのような仕事に思わずそんな質問を美波に聞いていた。
「結構、いいですよ?あたしもやっていたことあるけど、でも未来さんから見ればありえない給料かもしれないですけど」
「そうなんだ」
「どうかしました?」
「なんでもない」
「みんな必死なんですよ、お金を稼ぐってことに」
その美波の言葉を聞きながらあたしは再び彼女たちの姿に完全に見入っていた。
あたしは彼女たちみたいに笑えているのだろうか……
この気持ちいい空の下で働き汗を流しながら笑顔で動き回っている彼女たち。
現実と夢の世界という1枚のドアで区切られている空間で働き、そこで身につけた笑顔を振りまいているあたし。
きっと、感じる全てのものが違うのだろう……
そう思いながらビールを口に運ぶと、いつもと同じビールのはずのに、それは美味しさも違い思わずコップの中を覗き込んだ。
「おいっ!!未来!!」
「ん??」
「お前さ俺ら乾杯しようとして待ってたのに、なぜ飲む……」
「えっ?」
美波と店長を交互に見ると、紙コップを持ったまま待ち構えている姿が目に入り「なんの乾杯?」と聞くと、「俺らの世界の常識だろ」なんて二人揃ってため息をつかれ、自ら二人の紙コップに乾杯をしアハハッと笑った。
5年間も夜の景色ばかりを見てきたあたしにとって、やっぱりこの明るい景色が調子を狂わせてしまう……
「ったく、未来は……」
そう言いながら、やっと口元にビールを運んだ店長を見ながら「だから来たくなかった」と小さく言うと、「こういう世界もあるんだよ」と真剣な顔をしてグランドを見つめていた。
そんな店長から目を反らすとあたしもグランドを見つめた。



