「未来さん、何時頃いつも出るんですか?」
「んっ、その日によって違うけど」
「あたしも一緒に出勤していいですか?」
タバコを吸いながら、携帯をチェックしていると洗い物を終えた美波があたしの顔を覗き込む。
いやだなんて言えないだろう。
いや、むしろその方があたしらしいはずなんだけど、どうしたものか、突き放す言葉が出てはくれない。
「好きにすれば?」
気がついたら、そう言っていて美波は喜んで「ならシャワー借ります♪」なんて跳ねるようにバスルームへ飛んで行った。
「すごーい!!ひろーいい!!」そんな美波の声を少し遠くで聞きながら「なにかがおかしい……」そう1人呟いた。
完璧に美波のペースにはまっているあたしがいる。
1番苦手なタイプといるあたしは、どうかしちゃっているんだ……
自分の部屋なはずなのに、何をしてたらいいのか分からず、店行く準備をしたくても、まだシャワーを浴びてない。
先にシャワーを使わせたことをひどく後悔した。
いつも、起きている時にはあたしの部屋で必ず流れ続けているあの悲しい曲。
それに、昨日といい今日といい電源のボタンを押さないでいるあたし……
この部屋にいる時は、5年前に捨てたはずのもう1人の自分、柚来がたまに未来を奪おうとする。
『未来さんは恋してないの?』
昨日、美波があたしに言った言葉がなぜか浮かんでは消える。
「恋ってなによ……」目の前に無造作に開いたままの携帯を眺めながら呟いた。
仕事が全て詰まっているあたしの携帯。
昔は確か、大切な人達を連絡を繋ぐはずのものであった。
なくしてはいけないもの。
だけど今は、この携帯を落としても誰もあたしを心配することも、あたしと連絡が繋がらなくても探してくれる人もいないだろう。
電話帳の電話帳がいくら埋まっていたって、今のあたしの携帯は軽い……
ガチャッーーー。
「未来さん、ありがとうございました!!」
シャワーを浴びて出て来た美波を見て携帯を閉じ「あたしも入ってくる」と部屋を後にした。