アイツ……!!


あたしにいつもつきまとい唯一からんでくる美波。

美波の存在をずっと“うざったい”と思ってきた。


だけど、不思議と怒りが込み上げてくることもなく、 ただ拍子ぬけした自分がいて、 なぜだか美波が可愛く思えていた。


ひとり残された空間が異常に寂しく感じ、美波の後を追うようにトイレから出た。


さっきの騒がしい光景など、まるで嘘かのように静かな広いフロア。

あたしのために、たくさんのお客さんが抱えて来てプレゼントしてくれた花の数々……


こんなあたしのために開けられた、たくさんのお酒……


お店の前には沢山並んだスタンドの花たち。


黒服たちが忙しそうに片づけをしてる姿を、ぼーっと見つめていた。



「未来、ちょっといいか?」

あたしの背後から静かにつぶやくこの声は、もう振り向かなくたって誰なのか分かってしまう。

「はい」

そう前を向いたまま答えると、なんだか顔を合わしづらく、後ろを黙って着いていった。


「まぁ、未来…そこに座れよ」

「あ、はい」


くわえていたタバコを綺麗な灰皿でもみ消しながら、また新しいタバコに火をつける店長の姿に、こっちまでもなんだか緊張し落ち着かない。


「はい、これ5周年祝いのプレゼント」


店長は、スーツから取り出した少し、くしゃくしゃになった白い封筒をあたしの目の前に置き、開けてみろと言わんばかりに眉毛を動かす。


「えっ??あ、ありがとうございます」

満足げな店長の前で、あたしは封筒を開けた。

「な、なにこれ……」


封筒から顔を出したのは、2枚のチケット


プロ野球の横浜対巨人戦だった。



「なにこれ」

「なにこれって。喜べ!!」

「だって、野球のチケットって……」


きっと、?がついているような顔をしていたのだろう。
目を細めて 笑う店長にあたしは訳がわからず、手にある紙切れをただ眺めていた。