バタンと思い切りトイレのドアを閉めると、もう涙が溢れては止まらなかった。
声を押し殺すように自分の手を口元に当てながら、頬には涙がつたっていた。
なんで、なんであの歌を……。
あの歌はあたしの大好きな曲であり、大嫌いでもある曲。
この世界に入ってから、自分の部屋で流す曲はいつも、あの曲だった。
5年間、ほかの曲を部屋で聴いてない。
新しいCDすら買っていない。
寝る前に毎日かけるあの曲は、唯一あたしの心を癒してくれた。
だけど、そんなことを店長が知るはずがない。
だとしたらなんで……。
顔を上げると、そこには奇麗に着飾っていた姿なんて、これっぽっちもなくて、化粧が崩れた醜い姿が大きな鏡に映しだされていた。
「未来さん、大丈夫ですか?」
そんな声と共にトイレのドアを開いたと思えば、顔をあげ鏡越しに確認すると、 あたしが最も避けたい人物、美波だった。
「なんか、あったんですか?」
甲高い声があたしをイライラさせる。
「具合でも……」
「ほっといてくれる!!てゆーか、あんたなんなの?あたしに関わらないで!!」
醜い姿のあたしは、姿だけじゃなく心も醜くなっていた。
トイレの外からは、客が帰っていくのであろう、騒がしい声が響いていた。
「てゆ~かさ、なんなの?はどっちよ、人が心配してやってんのに!!何様のつもりだよ!!」
はっ……?
外の騒がしい声にも負けず、美波の声はトイレの中に響きわたった。
あまりに衝撃的な美波の態度に、あたしは口を開けたまま、鏡越しに背後にいる美波を見つめた。
「な~んちゃって♪嘘で~す!ごめんなさい、ただそのくらいあたしも未来さんの言葉が衝撃的でした」
そう言うと、深く頭を下げ、トイレから出ていった。
あたしはただただ、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。