「安藤さん、遅かったね」


席につくなりそう発すると「いつもより早く着いたんだけどな」と微笑していた。


そうか、アイツの席にいたから時間が長く感じたのか……




そう思いながらも、あたしは安藤さんに笑顔を振りまき、ロックグラスにお決まりのブランデーを注いだ。


「なぁ?未来……」

「んっ?」

「お前はずっと夜の世界で生きていくのか?」

「えっ??」


あたしに頼んでくれたドリンクを安藤さんのグラスに重ねようとした時、静かに呟いた。

そして、あたしの返答を待ちながらロックグラスを片手に持ったままで、そんな安藤さんの姿に思わずあたしまでもが同じ形で固まってしまっている。


ずっと夜の世界で……


考えてみたこともなかった。


あたしがこの空間から飛び出てしまうこと


ここが、唯一の自分の居場所のように感じていたから……



「お前は、いい女だ、こんな世界にいなくても輝ける」あたしの困っていた姿に見かねたのかそう優しい口調で静かに呟いた。

「そんなことないよ」

「いただきます」そう言いながら安藤さんのグラスに重ねカクテルを口にした。



あたしは、この人工の光を浴びて生きていくのがちょうどいい。

この光こそが、あたしを輝きだしてくれるんだ。


外の綺麗な光を浴びてしまえば、醜いほどにあたしの化けの皮は剥がされてしまう。



「勿体ないな、お前は勿体ない」


様子のおかしい安藤さんは、ここに来る前にどこかでお酒を飲んできたんだろうと思った。


こんな風に、この人がお酒を飲む姿を見たことはない。


なぜだか分からないが、あたしの視線は自然に店長の方へと向けられていた。