―言わないで―


 私たちは、それから付き合うようになった。


 さようならと、口にするのと同じくらい、つないだ手を放す瞬間がつらかった。


 それなのに、今は。


 あせりすぎたのかな、私たち。


 すぐに意気投合しちゃって、盛り上がり過ぎたのかな?


 だから、こんなにもつらいの?


 よっちゃんと誰かがつきあう、なんて想像が。


 でもいまは。


 空想が現実となって、そこに横たわっていた。


「長かったよね。もう、くたびれちゃった」


「オレはそんな風に思えやしないよ」


「うそ。あの娘がいるくせに」


 よっちゃんがまだ、私にごまかせているつもりでいることが、腹立たしく、哀しかった。


「クラブ、行ったでしょ。お酒、出してるとこだよ」


「ああ、でもあのときは、友だちがバイトしてるっていうから、顔見せに行っただけ――」


「あとからミーナが入ってったでしょう。年上っぽい男の人に、車で、エスコートされて」


「だったら、オレに言うのはお門違いだろ? オレがエスコートしてたワケじゃないんだし」



 私は正直、泣きそうになってわめいた。


 ああこんな姿、あなたに見せたくなかった。


「ばか。そんなこといってるんじゃない。そんな下手な小細工してまで、ミーナといたかったってことでしょう? それで、ばれないって思ってたワケ?」


「もう、やめろよ」


 全部、だ。


 私は自分の持ちうる全てで彼を愛しているのに。


 よっちゃん、あの娘の処に行っちゃうの?


 私は?


 そんな彼を許さなきゃいけないの?