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その日、僕は初めて彼女と出会った。
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重たい足をひきずるように、僕は教室の前の扉までやっとたどり着いた。

森岡 優斗(モリオカユウト)、平凡と普通な暮らしを夢見る中学二年生。

約一ヶ月前、信号を無視したバイクにひかれてずっと入院をしていた。

別に重傷なんて事はなく、ただ足の骨と腕の骨が折れる程度で済んだ。

だが、過保護な親の余計な一言のせいで、長い間入院するはめになってしまった。

おかげで学校にも行けず、友達とはお見舞いに来てくれた時にちょっと話す程度だ。

けれど、一昨日退院出来て、やっと学校に来れるようになったのだ。

これでやっと平凡な暮らしに戻れるのか、と少し安心する。

しかし、この安心も束の間。

すぐに平凡や普通とかけ離れる日々を送る事になる事を、僕はまだ知るよしもなかった。

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僕は扉の引き手に手をかけるも、扉を開けるのを少し躊躇った。

別にいじめられているなんて事はない。ただちょっとばかり緊張している自分がいる。

こんなことで緊張してもしょうがない、と溜め息をひとつつき、扉をガラッと開け放った。


きゅっ、と上履きが高い音を鳴らし、教室の中に入っていく自分。

「……おはよう。ひさしぶり!」

その声に、一瞬教室が静まり返り、懐かしいクラスメートの誰もが僕に視線を向ける。

僕はへらへらと馬鹿っぽい笑みを浮かべた。内心では少し冷や汗をかいていたが。