唇を固く噛み締める。
涙に交じって、口の中に鉄の味が広がった。
あたしは、ヒロキのあたたかい手を、両手でしっかりと握る。
大きな手は、握り返してはくれなかった。
「…………」
付き合い始めた頃、よく手を繋いでデートしてた。
あの頃はなにもかもが新鮮で、ドキドキして、初々しかった。
「一緒に住もう」って、照れながら言ってくれた時。
知ってた?
表には出さなかったけど、あたし、すごいすごい嬉しかったんだよ?
ヒロキとの毎日が楽しくて、気付いたら7年もたってたんだ。
そしたら、楽しいってことさえも、あたしは忘れてしまっていた。

