ふり上げた拳にしがみつく初めての感触に、身体が硬直した。初めて香る君の匂いと至近距離。
顔を覗けば、おまえは怒っていた。



「女の子に手を上げんな」
「はぁ?!おまえ何言って…!」
「黙って」



口元に人差し指を押しつけられる。そんな事をされると閉じざるおえない。
振り上げた腕から力を抜くと、真織はオレから遠ざかり一歩前に出ると地面に落ちたホースを取り上げ。
そのままホースを握り、その場に居た女達に水をかけ始めた。
しかも、痛いくらい勢いがあった。



「ちょ!」
「なにすんのよ!!」
「それはこっちの台詞だっての。訳もわからない理由で呼び出すんじゃないわよ」
「キャ!」
「あたし、やられたら3倍返しじゃないと気がすまないから」

「「「「「ヒッ!!」」」」」



ホースをクルクルと手中で扱いながら、女共が逃げて行くのを傍観していると水道へ歩いて行き蛇口を閉める。
それから振り返り。いきなりの文句と罵倒。



「女の喧嘩に水差すな、ボケ」



その言葉を残して濡れた髪を払いのけながら、アイツは背を向けて帰っていく。
折角助けてやったのに、あの女(アマ)!

握り拳を自宅に帰るまで解けなかった。きっと田中の言葉がなかったらオレは、見失ってたかもな。