溝口純太郎は、いつもの喫茶店に居た。
テーブルにはアメリカンとラークの吸い殻がいくつかある灰皿だけ。
【喫茶 街角】というこの喫茶店は、遼祐と純太郎が何かある度に利用する溜まり場になっていた。

学校からもそこまで遠くなく、なおかつ教員達が生徒達の下校後に、見回りに来ない範囲の場所にあり、煙草をふかすにはちょうど良い場所だった。

純太郎がラークの箱に手を伸ばしたとき、入口のほうからチリンチリンと音が鳴った。
いらっしゃい、と、人の良さそうなマスターの視線の先には、遼祐の姿があった。

『遅いぜ。10分遅刻だ。』

純太郎の前に遼祐が腰をおろした。

『悪い。ちょっと…な。』
『ちょっとなんだよ。』
『いや、いいんだ。それより、アレはうまくいったか?』
『あぁ。まぁなんとかな。んで、これからはどーすんだ?』
『こっからは俺一人で動くよ。やっぱそんくらい自分でやんなきゃカッコがつかないからな。』

遼祐が以前から持ちかけていた、さくらについて二人は話し合っていた。
出会ってから好きになるまでに時間は掛からなかった。あの笑顔を見たときに感じた気持ちは紛れも無く本物だったからだ。

『そっか。うん、まぁがんばれよ。』

純太郎はそういって、腰を浮かせた。

『純、ありがとな。』

ニコッと笑うと、純太郎は金を払わずに店を後にした。
二人の間では、相談を持ち掛けた方が支払いをするのは、暗黙のルールになっていた。
純太郎がでていった直後にきたカプチーノを飲み干すと、支払いを済ませ、遼祐も店を後にした。


『まいど。』