春、遼祐と田島さくらは出会った。
入学式の日だった。
式が終わり、教室に案内され、偶然隣に座ったのがさくらだった。
『あたし田島さくらって言うんだ。よろしく。』
『あ、俺は沢村遼祐。遼祐って呼んで。よろしく。』

最初の会話は自己紹介だった。
今までこれといったあだ名を付けられたことが無い遼祐は、名前で呼ばれるのが一番心地よかった。

『あだ名とかってなかったの？』
『あぁ、だいたい【遼祐】か【沢村君】だったな。』
『じゃあなんかあだ名つけたげる』

八重歯を覗かせた満面の笑みで、さくらが言った。

『いいよぉ…遼祐で。』

初めてのパターンに戸惑いと照れが生まれた。

『んーとねー…遼祐、りょう、す、け。っと…』
『考えなくていいってば。』
『よーし！ももちゃんにけってーい！』
『なんで？！！』
『あたしが飼ってるハムスターのももちゃんに似てるから！』
『勘弁してくれよ。付けるならもっとマシなのにしてくれ。』
『えー…じゃあ遼ちゃんでいいや。』
『そりゃどうも。』

入学早々、遼祐は大きなため息をついた。
しかし、あの時見せた八重歯が、遼祐の心臓の鼓動を速まらせていたことは遼祐も知っていた。