視線が背中に突きささる。
痛いほど感じるけど、振りかえれない。
校門によりかかりながら待つ翔太まで、駆け足で向かった。
携帯で音楽を聴いているみたいだ。頭が少し動いているから、リズムをきざんでいるのがわかった。

「ごめん、お待たせ!」
みちるは、少し息を切らしながら言った。
「うん、大丈夫。掃除おつかれ」
翔太は耳からイヤホンを取りながら、ニヤリと笑って見せた。
「なによ。その笑いは!」
少し腹を立てたように、みちるは翔太をにらんだ。
「いや、だからさ、俺はハゲ小原から逃げ切って、掃除をまぬがれたけどさ。君は真面目ちゃんだからね~」
「なによ、わたしはきれいなトイレを使いたいだけよ。知らないから、そのうち男子トイレからゴキブリが出てきても!」
みちるは、毎日のように掃除をまぬがれている翔太が、憎らしくてたまらないといった目つきでにらみつけた。
「にらむなよ。俺だって、毎日ハゲ小原の追跡をふりきる為、日々体をきたえているのだよ。」
と言って翔太は腕に力コブを作るふりをしてみせた。
それを見て、みちるはふき出した。
なぜなら、翔太の担任の小原と翔太の鬼ごっこ(みんなはそう呼ぶ)は、西高校の名物だからだ。
サボりの常連の翔太とその仲間たちを捕まえようと、いつも鼻息を荒くしているのだか、今まで一度も翔太たちを捕まえたことはない。
特に仲間内でも、翔太の逃げ切り方は天才的で、いつもひらりと華麗に逃げ切ってしまう。
「昨日、ひかるくんたちタバコで捕まったんでしょう?今日、休んでたよね。停学なの…?」
みちるは心配そうに、翔太に聞いた。
「いや、今日はサボり。スノーパークが今日オープンしたから、初滑りしてくるってさ。ボードばかだからな、ひかるは。」
みちるは、ひかるならやりかねないと笑った。
ひかるは翔太の幼なじみで、ボードはプロ並に上手いのだが、冬になると学校そっちのけでスキー場に通い詰めるのだ。
「はなしは歩きながら。2階からずっと見られてる、落ち着かない。」
みちるが、翔太の視線の先を見ると、さっき背中に感じていた視線の持ち主たちが見えた。
吹奏楽部の女子たちが、2階の音楽室からのぞいていた。
みちるたちにバレたのに気づき、慌てて隠れてしまった。