弟の恋人を奪い連れ去る車内で
彼は、何も話さずに、ただ
前だけを見つめる。

彼は、何を思っているのだろう

後悔しているの?

イサオさんは何も話さないまま
煙草に火をつけくわえる。
 
そして、ため息をつくように
煙を吐く。
 
煙は流れ、窓の閉められた車内
を覆っていく。

その煙に、私は息が苦しくなり
咳が止まらなくなる。
 
彼は慌てて、煙草を灰皿に捨て
窓を開けた。

彼の深い悲しみに同調した
私の心を不安が襲い、涙が溢れ
頬を流れていく。

彼は、車を道路の脇に停め
ハンドルに手を置いたまま
俯き、しな垂れる。

「ごめん・・・」