だがこの時、俺の中では1つの迷いが生じていた。

 別に彼女のことが嫌いな訳では無かった。

 いや、むしろ〝好き〟と言えよう。



「ダメ……かな……?」



 綺麗な瞳で俺を見つめてくる紗英さん。

 だけど、どうしても言葉が出てこない。

 〝はい〟と言えばその後は幸せが待っていると言うのに、俺は言えなかった。

 だんだんと心臓の鼓動が激しくなり、今にも破裂するのではと思うくらい苦しく、そして邪魔してくる心のもやにムカついていた。

(これが……恋……?)

 俺は訳の分からない事を考えていた。

 それは極度の緊張から成るものだろうけど、それははっきり言って、今自分は夢を見ているのではと思うほど気が動転してしまっていたのだ。