一周忌。そう思うと、一年なんてあっという間のようで、長い気がする。どっちかというと、まだ一年なのか、そんな感じ。
「クソ高谷君。よく眠れてますか?」
「こら」
 相変わらずなんだな。友菜さんは口が悪くて、俺はそんなに気に留めないけど、高谷はいつも冷や汗かいて。
 訂正。お前がいないわ。
「友菜さん、そんなんじゃ高谷も寝てらんないだろ?」
「良いんだよ。化けて出るくらいが丁度良いんだよ」
 本当に口が悪い。
 でも、高谷。俺もまだ、お前が生きてたら、なんてたまに思うよ。たまに。
 お前が生きてた頃、時間がすごく早く進んでるような気がしてた。いつ一緒にいられなくなるんだろうか、って焦ってた。でもな、もし今みたいに穏やかな気持ちでいられたら、お前の事もっと大事にしてやれたんだろうな。何だか情けないわ。
「全は冷たいな」
「嘘だろ。友菜さんに言われたくない」
「馬ー鹿!」
 高谷博貴。俺と友菜さんの大事な友達。高谷は去年のこの日、病気で死んだ。
 あいつの家は金持ちじゃないから、そんなに立派な墓は立たなかったけど、高谷にはこれくらいが丁度良いんだと思う。大きな墓地に建てられた、ありふれた四角い石よりも、民家の間にあって景色も見えないような、彼岸花の咲くこの場所が。
 きっと、来年もこの地に足を運ぶ。友菜さんと二人で海を渡って。
 やっと静かに眠れたんだもんな、高谷。

 行きはバスで来たけれど、帰りは駅まで歩く事にした。たいした距離でもないからだ。
「元気そうだったね」
「石だよ?わかんねーよ」
 相変わらず、なんか痛い。目から水出そう。
「たぶんね、高谷はあそこにはいないよ」
「じゃあ、どこにいんのよ?」
「知らない。どっか」
 茶化して良いのかそうじゃないのかよくわからない……。だから俺はいつも、友菜さんに翻弄されるんだろうな。
 ふと、視界に鈍い光が入った。目で追うと、ただの女の人だった。俺達が来た方向に、その人は向かっていた。
「墓参りかな?」
 俺の視線を追うように友菜さんが顔を回す。
「近所の人じゃん?」
 なんて否定的なんだ。でも好きだけど。好きなんだけれども!
「そうですね」
「何だあ?それ」

 倉臼全。俺の名前。彼女は友菜。一応、女房。
 俺達はまた、海を越えて共に帰る。