「な…なに?」


光希が震えた声を出すと、男は困ったように笑った


「そない怖がらんで。なんにもせぇへん」


男は言ったが、光希は一歩後退りした


男の関西弁という未知なものに光希はなぜか、さらに不安になった


しかし体がすっかり固まってしまって動かない


男は光希の腕を離して、光希を見た


「ほんま急にあれなんやけど…」


そう言って男は少しクセのある黒髪をかいた


光希は怪訝そうに彼を見て何を言い出すのかと、ドキドキしている


「あのな、俺の写真のモデルやってくれへんかなぁ」

光希は突拍子もない彼の言葉にあんぐり口を開けたまま固まった


意味がわからなかった


急になんなんだ


光希はそう思った


さっきから彼は光希にとって不審者なわけで、急にそんなこと頼まれても受け入れるわけがない


光希は寒気に襲われた


だれがよく知りもしない男の頼みなんか聞くか


「む、むりです…!!」


光希は一言そう叫んでその場をものすごい速さで離れた


そうして家まで全力で走った


断られたからなのか男はもう追ってこなかった


玄関のドアをしめて、ようやく安堵のため息をつく


こんなことこれっきりだろうと思った